笑って 笑って 笑って

君に真っ直ぐ伝えたくて

『ソーホー・シンダーズ』備忘録 2幕


M9『Entr'acte』


♪今夜は行こうシンデレラ
 舞踏会へ
 注目浴びてシンデレラ
 確かめる時だ


ベリンガム卿「ロビー!」


♪そのガラスの靴


ジェイムズ「ロビー?」


♪君に合うのか……



ーーーーーー


(パーティー会場)



M10『Who's That Boy?』


♪彼はどこの誰なの?
 彼はとても素敵ね
 彼は切れ者みたい
 彼と話してみたい
 彼は 誰だ?


ベリンガム卿「ロビー、ちょっと良いかな?」

(逃げ隠れるロビー)


♪彼は訳がありそう
 彼は敵のスパイか?
 彼は一人できたの?
 彼はコネでもあるの?
 彼は 誰だ?


マリリン「ジェイムズ、順調?」

(ジェイムズ、ロビーを探しに駆けていく)

マリリン「何が起きてるの」

ウィリアム「今調べてるところだ」


♪入ってくるのを見たか 我が物顔で
 誇らしい姿 何者なのか?
 彼の輝きに目を奪われ
   ?   
 彼は 誰だ?


(ジェイムズ、ダナにぶつかる)

ジェイムズ「おっと、失礼!」

ダナ「…また私を見た。彼、私に気がある!」

クローダ「彼は私に色目を使ってるのよ!それにしても他の政治家は小物過ぎて、私たちには合わないねぇ」

ダナ「その点、ジェイムズ・プリンスはぴったり!」

クローダ「スタッフドオリーブみたいに?」

ダナ「やっだ、オリーブになりたい!」

ダナクロ「キャハハハ!」


♪彼はおかしな態度


クローダ「あれ、ロビーじゃん!」


♪彼は裏があるはず


ダナ「こんなところで何してんの?」


♪彼は…

 ただの弟
 別にそれだけの事


ウィリアム「君たちここで何してる!警備員を…」

ダナ「ストップ!あんたが知りたい事、あたしたちは知ってる」

(ウィリアムの胸の上で、招待状に連絡先を書くダナ)

ダナ「ここに電話して♡(投げチュー)」


♪退屈極まる政治の世界
 輝く彼こそが救世主
     ?
 皆追いかける
 彼は 誰だ? 教えてよ

 彼は秘密を纏い
 彼は視線を奪う
 彼は 誰だ?


(ロビー、別室に逃げ込む)

ベリンガム卿「ロビー、大丈夫かね?ジェイムズ・プリンスを見た時の様子がおかしかったよ。君があんな驚く顔をするなんて…」

ロビー「何て言うか、ここじゃ自分らしくいられないって言うか。その…帰った方が良いんじゃないかと…」

ベリンガム卿「その必要はないよ!この上に私の部屋があるんだ。そこに泊まっていきなさい」

ロビー「やっぱり帰った方が…」

ベリンガム卿「医師が来てるんだ、見て貰うと良い」

ロビー「俺は帰りたいんだ!」

ベリンガム卿「今夜は私にとって大切な夜だ!!いや、君と私…我々にとって」

ロビー「…我々?」

ベリンガム卿「手紙に書いたはずだよ。君がそのプラダのスーツを着てるという事は承諾したという事だねぇ」

ロビー「…確かに、貴方はそうした。でも、分からないだろ?二人が同じ気持ちかどうかなんて」

(ジェイムズ、二人の密会現場に居合わせる)

ベリンガム卿「…なるほど。だが君は私から1000ポンドを受け取って買い物三昧をした」

ロビー「……でも…」

ベリンガム卿「いいや、ロビー。君は誤解をしているようだ。これまでのプレゼント・ディナー・金・スーツ、何もかも慈善事業じゃないんだぞ。…君は私を何だと思ってるんだ!!」

ロビー「…じゃああんたは俺を何だと思ってるんだよ!!」

ベリンガム卿「何だと思ってるか教えてやる!!」

(ロビーに襲いかかろうとするベリンガム卿を止めに入ろうとするジェイムズ。その場へ駆け付けるウィリアムとマリリン。争った際、ロビーの手からは携帯が落ちる…)

ウィリアム「ベリンガム卿!お邪魔じゃないですよねぇ?」

ジェイムズ「ロビー、何でここにいるんだ。彼(ベリンガム卿)と知り合いなのか!?」

ロビー「……今は説明できないっ!!」

(マリリンの横を通りすぎ、逃げ去ってくロビー)

ジェイムズ「ロビ…!!」

ウィリアム「ジェイムズ!ゲストの相手を。ベリンガム卿、ちょっと宜しいですか?」

ベリンガム卿「勿論だとも」


♪何を隠しているの? 私に
 何が怖いの?
 彼は見たくなかった
 何か突きつける人
 彼は 彼は

 彼はどこの誰なの?
 彼はとても素敵だ
 彼は  ?
 彼は  ?
 彼は 誰だ? 誰だ?


♪~(ロビーの携帯の着信音)



ーーーーーー



♪~(ビッグ・ベンの鐘の音)


(客席を走り抜けるロビー)


サーシャ「ロビーは夜の街を抜け出した。辿り着いたのはライオンの前足の横。そして…」



(ライオンの横に座り込んで息を整えるロビー。そこへジェイムズが駆け付ける)


ジェイムズ「…君はここにいる。そう思ったから」

ロビー「…俺の事、よく分かってるんだねっ」

ジェイムズ「…そうかな。自信が無いよ…。ベリンガム卿の事何で知ってるんだ」

ロビー「……。ねぇジェイムズ…」

ジェイムズ「どうか言ってくれ!僕が思ってるような事じゃないよね…?」

ロビー「……」

ジェイムズ「聞いてるんだロビー!!君には、報告する義務がある」

ロビー「…義務なんかない!でもあの人とは本当に寝ていないよ!嘘だと思うなら…」

ジェイムズ「じゃあ何で彼の事知ってるんだ」

ロビー「俺を気に入ってついていったんだ。友達として、彼に同情したんだよ。本当に純粋にね?でも彼は変わっていて、俺に金や物をくれるようになって。で、今は…それ以上の事を…」

ジェイムズ「なるほど!先々どうなるか考えなかったって訳だ!!どうして話してくれなかったんだ…!!」

ロビー「そっちだってあるだろ!!俺が聞けないでいる…例えば、フィアンセの事とか。こっちだっていろいろあるんだよ!」

ジェイムズ「…でもそれは、僕に話すべき事だ。僕は、市長選に立候補してるんだぞ!くそっ……この事態がどう見えるか分かってんのか!!」

ロビー「どういう意味だよ…!」

ジェイムズ「『経済界の大物、金を払ってゲイの若者とお楽しみ』。あげくは『同伴・接待』と書き立てるだろう。最悪、『レントボーイ』だと…」

ロビー「俺はあの人とヤってない!!」

ジェイムズ「でも金は受け取った。金は受け取ったんだ……!!!
もしマスコミが僕と君を結び付けたら。『市長候補、フィアンセがいるのにレントボーイと浮気』。悲惨すぎて笑えるよ…」

ロビー「…でも俺は、あんたから金を受け取った事はない。俺はあんたの恋人だろ?レントボーイじゃない!!」

(ロビー、ジェイムズの裾を指で摘まむ)

ロビー「俺はあんたに恋をした。だからあの場所にはいられなかった。他の誰かといたくなかったんだ…ねぇ、ジェイムズ…」

(切ない表情をしながら、ロビーの手を振りほどくジェイムズ)

ジェイムズ「……もう無理だよ。…くそっ、僕はなんて事をしたんだ……!!」

(ジェイムズ、走り去って行く)

ロビー「ジェイムズっ…、ジェイムズ!!」


(ロビー、電話をしようとするが、携帯が見つからず)

ロビー「…ないっ!なんで、…なんで無いんだよっ!!!…ジェイムズ、……ジェイムズ……ジェイムズ…っ……」



M11『They Don't Make Glass Slippers』


♪世界に愛される事を
 夢見てきたけど
 愛されるのは一部の
 誰かだけさ

 ガラスの靴は どこにもない
 まして俺に合うサイズは
 運命変える魔女もいない
 俺には全てがおとぎ話

 ガラスの靴は 残酷だ
 夢だけ見せて 砕け散る
 王子様が去るならば
 夢見る前に教えてくれ

 世界に愛される事を
 夢見てきたけど
 愛されるのは一部の
 誰かだけさ

 世界に愛される事を
 夢見てきたけど
 愛されるのは一部の
 誰かだけさ

 ガラスの靴は どこにもない
 まして俺に合うサイズは
 運命変える魔女もいない
 俺には全てがおとぎ話

 全ては悲しいおとぎ話


(ロビー、トラファルガー広場で眠りにつく)



ーーーーーー



サーシャ「翌日の朝。選挙事務所には重たい空気が立ち込めている」



『バンッ!』

(ウィリアムがクリップボードをデスクに叩きつける)


ウィリアム「これは君の資金提供者のリストだ。全員昨日あの場にいた、そして全員から!!説明を求める電話があった。…この事態を修復する前に、君から真実を聞きたい」

ジェイムズ「……」

ウィリアム「…おい、何か言えよ!」

ジェイムズ「…あ、……彼が、昨日何をしていたのか、僕は知らない。ただ、彼はベリンガムの話し相手として雇われていた」

ウィリアム「あの若い男…」

ジェイムズ「名前はロビーだ」

ウィリアム「で、君とも知り合いなんだな?」

ジェイムズ「……4ヶ月、付き合ってる」

ウィリアム「ゲイの若者…つまりレントボーイか!」

マリリン「お願いやめて」

ジェイムズ「彼はそんなんじゃない!!…ただ、ベリンガムは話し相手として金を払っていた。…どうやらセックスはしていないらしい」

ウィリアム「お前はどうなんだ?」

ジェイムズ「セックスをするのに金を払ったかどうかって?ありえない!彼との間に、金のやり取りは一切無い!!」

ウィリアム「へぇぇーそれは良かった!それなら誰も君に興味を持たないよ。さぁ、お偉いさんたちに電話をしようじゃないか、君が聖人君主だってな。………くそったれ…。ハーレルヤーーーー!!!!」

(ウィリアム、ジェイムズの選挙ポスターが貼ってあるキャスターを蹴る)

マリリン「ウィリアムやめて!!!」

ウィリアム「フィアンセがいるに!!秘密の恋人、しかもそれがゲイのレントボーイ!!どっかーーーん!!!大爆発だ、選挙も吹っ飛ぶ!!!……くっそ、くそくそくそっ!!!!」

(その場を立ち去ろうとするマリリン)

ジェイムズ「マリリン!」

マリリン「彼(ウィリアム)の前では話し合いたくない。家で待ってるわ」

(サーシャ、キャスターを直す。そこに貼ってあるポスターを見つめるマリリン)

マリリン「…虚しいわねぇ


…何て事っ!」



M11a『Spin - Reprise』


♪常に誠実に真実を語りたい
 まっすぐな態度で
 政治家の語る言葉が
 地に落ちた今こそ
 それが彼の言葉
 笑うしかない



♪~(ロビーの携帯の着信音)


マリリン「…もう、何なのよっ!!…どうしよう……」

(電話に出るマリリン)

マリリン「…もしもし」

ヴェルクロ「ロビー!!」

マリリン「いえ…でもこれは彼のスマホよ」

ヴェルクロ「貴女は…?」

マリリン「…マリリン・プラット」

ヴェルクロ「私はヴェルクロ!どうしてロビーのスマホを?」

マリリン「彼が落としたのよ!昨夜慌てて出ていったから」

ヴェルクロ「彼は今どこにいるの?」

マリリン「ねぇ…私が知る訳無いでしょ…?」

ヴェルクロ「ロビーにスマホを返しに行ってくれない?」

マリリン「…嫌よこんな薄汚いものっ!私は絶対に返しません!!」



ーーーーーー



ジェイムズ「…僕はどうしたら……」

ウィリアム「俺が教えてやる!まずは家に帰って身綺麗にしろ。君は貧民靴の連中と付き合っただけでなく、ドブの臭いまで体に染み込ませたんだからな!!…午後までにこの話はリークされるだろう。いいか、君からのコメントは絶対出すなよ!」

ジェイムズ「…あぁ……」

ウィリアム「それと謝罪のスピーチを書け、これまで最上級なものをな!この選挙をどれだけ救えるか、やってみようじゃないか!さぁ!」

ジェイムズ「…っ!(コクン)」

(選挙事務所を跡にするジェイムズ)


(ジェイムズのオフィスの椅子に座り、デスクに足を乗っけるウィリアム。クローダとダナに電話を掛ける)


ウィリアム「ウィリアム・ジョージだ。昨日電話番号を教えてくれたろ?ロビーは君たちの腹違いの弟だとか…」

クローダ「その通りだけどーーっ?」

ウィリアム「弟さんはどこに住んでいるか分かるよな?」

クローダ「あぁ…隣のコインランドリーで働いてるよーー」

ウィリアム「オールド・コンプトン・ストリートだな?よし、そのまま聞いてくれ。数時間以内に君たちの家にマスコミが押し寄せてくる。君たちの弟さんの事を猛烈に知りたがってるんだ」

クローダ「それで、あたしたちは何をすれば良いの?」

ウィリアム「弟さんの淫らな生活を語って欲しいんだ、出来るだけ下品でお下劣にね。お手の物だろ?」

クローダ「で、あたしたちに何の得があるって訳?」

ウィリアム「記者たちが君に大金を払う事を保証をするよ。ま、注目されるのを楽しみにしてくれたまえよ」

ダナクロ「注目ぅぅ~~~!!?」


ウィリアム「スクラーーーップ!!!」

サーシャ「はいウィリアム」

ウィリアム「これはチャンスだ……最高のチャンスがきたんだぁっ!!!…車を出せ」

サーシャ「…どちらまで?」

ウィリアム「ベリンガム社だ」



M12『The Tail That Wags The Dog』


♪世間の評判こそ 勝負を決める
 それを操るのは 俺の声だ
 鮮やかに喝采浴びる政治家の
   ?  この俺の
 操り人形だ

 形づくり 仕立てあげて
 座りやすいように玉座を調え
 まるで忠実な犬のようにみせて
 何より大事な骨は俺のものだ

 あいつは理想の候補者だったけど
 傷が深すぎて もう守れない
 心浮き立つ後釜を探せ
     ?    奴を

 形づくり 仕立てあげて
 座りやすいように玉座を調え
 まるで忠実な犬のようにみせて
 何より大事な骨を頂くのさ

 誰もが秘密を隠してるなら
 それを使ってのしあがるだけだ
       ?
 ガラスの靴ピタッと合う足を



(ウィリアムとサーシャ、ベリンガム社へ到着)

ウィリアム「やぁ、ベリンガムさん!貴方が猥褻貴族だったとはねぇー(ベリンガム卿へ握手)」

ベリンガム卿「なんだと!?(手を振り払う)」

ウィリアム「資金集めのパーティーにベリンガム卿とレントボーイ。僕ならベリンガム社、株価下落に賭けます」

ベリンガム卿「何の事だかさっぱり…」

ウィリアム「貴方の可愛いレントボーイのロビーでしたっけー?」

ベリンガム卿「…彼に払ったのはそういう類いのものでは無いんだがね」

ウィリアム「この話は数時間以内にマスコミに漏れます。でも全ては、僕がどのストーリーを語るかに掛かってる!僕のストーリーはこうです。“変態ジェイムズ・プリンスが資金集めのパーティーにゲイの恋人を呼んだ”」

ベリンガム卿「なっ…!?」

ウィリアム「もちろん別のストーリーもあって、そちらを選ぶと何人もの偉大なる取締役が絡んでくる…」

ベリンガム卿「…分かったよ!私が巻き込まれない為にはいくら必要なんだ?」

ウィリアム「そうですねぇ、10万ポンドといったところでしょうか」

ベリンガム卿「何だと!?君は狂ってる!出ていけ!!」

ウィリアム「何も私腹を肥やす為じゃありませんよぉー。次の選挙に必要な資金の為です。…例えば僕のね」

ベリンガム卿「何…?」

ウィリアム「プリンスはもうおしまいだ。僕なら資質もありやり方も知ってる。市民の為の忠実な犬になりますよ。それに、立候補締め切りまであと2日ある」

ベリンガム卿「……私は何をすれば良い」

(ウィリアム、ベリンガム卿へキャッシュカードを渡す)

ウィリアム「こちらの口座に振り込みを。あとは私が全てやります」

ベリンガム卿「いいかウィリアム、失敗は許されないぞ…!絶対に!」

ウィリアム「だーれに言ってるんですかぁー!」


♪下がれ

 形づくり 仕立てあげて
 座りやすいように玉座を調え
 まるで忠実な犬のようにみせて
 何より大事な
       ?
 誰のものだ



ーーーーーー



♪~(ビッグ・ベンの鐘の音)



サーシャ「コインランドリーでは、ヴェルクロは穏やかに仕事をしている。彼女はまだ昨夜の悲劇を知らないからね。ロビーが携帯を落とした、って事以外は」



(マリリンがコインランドリーへ入ってくる)

ヴェルクロ「ごめんなさい、もう閉店にしちゃったの」

マリリン「…ヴェルクロ……、ね?」

ヴェルクロ「…うわ!実物がきたっ…。どうしたの?来ないんじゃ無かったの?」

マリリン「気が変わったのよ!」

ヴェルクロ「ねぇロビーは今どこにいる?大丈夫?」

マリリン「…知らない。私が知ってるのは、彼が私のフィアンセと寝ていたって事だけ」

ヴェルクロ「…それは、何て言うか……私も数日前に知ったんだよね。その時彼に言ったのはね…。…」

マリリン「?」

ヴェルクロ「大丈夫?お水持ってこようか?」

マリリン「(首を横に振る) ヴェルクロって、変わった名前ね」

ヴェルクロ「本当は『ソニア』って言うんだけど、縮れ毛だから皆そう呼ぶのよ!」

マリリン「ソニア…」

(マリリンの手にロビーの携帯がある事に気付くヴェルクロ)

ヴェルクロ「…それ、ロビーの…」

マリリン「…ジェイムズはいい人よ!いつも自分より他人の事ばかり。彼みたいな人、他に知らない。今回の選挙、凄く頑張ってたのよ!私たち二人で」

ヴェルクロ「…彼がゲイだって事、全然知らなかったの?」

マリリン「ずっと前から知ってたわ!少なくともバイセクシャルだって事は。驚くかもしれないけど、私たちはセックスもするし、……していたし。学生時代は男の子に目がいってしまう事、秘密でもなんでも無かった」

ヴェルクロ「…じゃあ、何で一緒にいるようになったの?」

マリリン「私たちは親友だったのよ、ずっと何年間もね。でもある日、彼に結婚を申し込まれたの。その頃彼の水泳選手としてのキャリアは終わろうとしていたし、政治家に挑もうとしてた。都合が良いんだろうと思ったわ、有権者に良い印象を与えるカップルとして。だから申し出を断った」

ヴェルクロ「でも…何で?」

マリリン「…半年ぐらい経って、もう一度申し込まれたの。考える時間もあったから私も考えが変わったし…つまり、38になってしまったって。自分に問いかけたの、『ねぇ、結婚して何か失うものがある?』って」

ヴェルクロ「可哀想に…」

マリリン「哀れまないで!自分がどの森に入り込んだかは分かってるし、私は前を進んでいた」

ヴェルクロ「…彼を変えられる、って思った?」

マリリン「……誰かを…必要としてたのよ、ソニア。私たちはお互いを利用していたんだわ」

ヴェルクロ「でも、恋愛感情は?恋はしなくて良いの?」

マリリン「…良いカップルを演じすぎて、私自身がおとぎ話を信じてしまったのね。…恋してるって気付く前に、彼に恋をしてた。哀れでしょ?」

ヴェルクロ「……あたしは、会った途端にロビーに恋をしたけど、何もないのは分かってたからね!彼は嘘をつけない人だから。でも、あたしとロビーが親友になるのに、ゲイが妨げになる事は無かったよ?あたしたち、兄と妹みたいなの。っていうか、姉と妹かな?実際は。38はまだ年寄りじゃない」

マリリン「!ありがとぉ!(笑)」

ヴェルクロ「峠はまだ越えてない」

マリリン「これ以上年を取ったら、峠道を封鎖させなくちゃね」

ヴェルクロ「聞いて!あたしのママは、あたしを43で産んだの。だから焦る事ないし、まだやり直せる!あんたに必要なのは、…理想の相手を見つける事だよ。都合が良いって思うんじゃなくて、自分を必要としてくれる人を…!」

マリリン「…貴女って肩から下は若いのに、頭は随分賢いのね」

ヴェルクロ「…ここから上(頭)は、考える為。ここから下(体)は、ダンスをする為」

マリリン「そしてここは傷つく為に(胸に手をあてる)」

(マリリンの手の上に自分の手を重ね、寄り添うヴェルクロ)

ヴェルクロ「……そう、傷つく為にある。……でも、…乗り越えられる!」



M13『Let Him Go』


♪貴女が自由になる為
 自由にするのよ 彼を
 愛に背を向ける訳じゃなくて
 彼の親友になるの
 離れた後で彼は知るでしょう
 貴女の愛の深さ

 躊躇う気持ちは捨てて
 自由にしなくちゃ 彼を
 悲しい結末は見えてたはず
 そうよ叶わぬ夢
 想いを込めて 別れる事が
 私の愛の全て

 過去に心を閉ざすより
 未来に目を向けて
 踏み出す時は恐いけど
 ただ光目指して

 彼を 彼を 自由に
 愛に背を向ける訳じゃなくて
 彼の親友になるの
 悲しみ越えて 羽ばたこう今
 愛した日々の 全てをかけ
 彼を 自由に



(ロビー、コインランドリーに駆け足で戻ってくる)

ロビー「クロっ!俺はここを出ていかなきゃならなくなった。本当は電話したかったんだけど…」

マリリン「(携帯を差し出し)落としたんでしょ…?」

ロビー「…!!」

ヴェルクロ「ロビー、この人はね…」

ロビー「……知ってる、マリリン…」

マリリン「……これってちょっと気まずくない?」

ロビー「そうだね…。…俺が言えるのは…とても、残念だよ。こんな結果になると思わなかったんだ。俺が望んでいたのは…」

マリリン「望んでいたのは?」

ロビー「…分からないけど!…でも、彼が…もっと違っていたら…」

マリリン「そうね、もっと厄介な付属品のついてない人だったら良かったんだけど!」

ヴェルクロ「あたしも言ったんだよねー、彼は危ないって!」

ロビー「俺、知らなかったんだ。貴女の事、最初は…。彼が好きになってくれて、俺は舞い上がって…!でも、誰と恋に落ちるかなんて、自分じゃどうにも出来ないだろ…?」

マリリン「…そうね。私貴方を責めるつもりは無いのよ!どこかでこうなる事分かってたつもりだし、知らず知らずのうちに準備をしてたのかもね」

ロビー「誰かを傷つけるつもりは無かったんだ。だから、行くよ……」

(鞄に荷物を詰めるロビー)

ヴェルクロ「どこへ?」

ロビー「マーゲイト。おばさんが住んでるんだ。それに、母さんがそこに骨を撒いて欲しいって」

ヴェルクロ「いつ帰ってくる?」

ロビー「多分これっきりだよ。君の部屋に居続ける訳には行かない。義理の親父が刑務所から出てきたら、ここも何もかも奪われる」

ヴェルクロ「まだ私がいるじゃない!馬鹿ね!!」

ロビー「クロっ!!昨夜あんな事があったんだぞ!?新聞は一斉に書き立てて、俺を悪者にするよ!ここも餌食にされるだけだ」

ヴェルクロ「じゃあ、あたしは…!?」

ロビー「…電話する。何か方法を考えるよ。…マリリン、…話せて良かった。こんな時じゃなければ、もっと良かったんだろうけど…」

マリリン「ありがとう」

ヴェルクロ「…必ず電話ちょうだいね?」

ロビー「するって言ったろ?」

マリリン「これが必要でしょ?(携帯を渡す)」

(ロビーの衣服を整えるヴェルクロ)

ロビー「ありがとう、クロ。愛してるよ。とっても…」

(親友の挨拶を交わし、走り去っていくロビー)


マリリン「想像してた人とはまるで違った」

ヴェルクロ「…信じらんない!なんで遺言を遺さなかったんだろう、いくら頭がボケてたからって…」

マリリン「誰の事?」

ヴェルクロ「ロビーのママ。アルツハイマーだったけど死んじゃって。で、家族が遺産も何もかもぶん取ろうとしてるんだよね。ママはそんな事望んでなかっ…」

マリリン「あの!立ち入るつもりは無いんだけど…私の経験上、死を意識した人が最初にする事は、遺言を書く事よ?」

ヴェルクロ「でも奴らは無いって言った」

マリリン「奴らって?」

ヴェルクロ「知らない…父親の弁護士かな?」

マリリン「ロビーは調べたのかな?そういうの調べるの凄く簡単なの」

ヴェルクロ「マジで?」

マリリン「これ私の名刺。気が変わったら連絡して!……貴女は大丈夫?」

ヴェルクロ「…多分。時間が経てば!」

マリリン「でもきっと貴女なら大丈夫!…ありがとう」

ヴェルクロ「何に?」

マリリン「親切にしてくれて」

ヴェルクロ「何もしてないよ!」

マリリン「沢山してくれたわ!…さようなら、ソニア」

(ヴェルクロとハグし、帰っていくマリリン)



M13a『Wishing For The Normal - Reprise』


♪どうか どうか
 小さな愛に包まれた
 ありふれた暮らしが
 ただただ欲しい



ーーーーーー



サーシャ「選挙事務所では、ジェイムズが明日の朝刊の見出しをチェックしている。“プリンス、レントボーイと寝る”」

ウィリアム「ザ・サン」

サーシャ「“プリンスと売春ボーイ”」

ウィリアム「ザ・ミラー。…下品な見出しだと思わないか?」

サーシャ「あぁーそうだねぇーー!!!“プリンス、実はクイーンだった”」

ウィリアム「デイリースポーツ!いつもよりイカしてるぅ。ボヘミアーン・ラプソディー!」

ジェイムズ「楽しそうだな。どうやら、マスコミは時間を無駄にしなかったらしい」

ウィリアム「君の恋人が何もかもぶちまけたって事だろう。お里が知れるよ。だいたい君は…」

ジェイムズ「僕は何も知らないと言っただろ」

ウィリアム「君はどうなんだ?隠してたよな、フェアじゃないよなぁー!」

ジェイムズ「それで。どうするつもりだ?」

ウィリアム「乗ってる馬が死んだら終わりだ。まだ闘えると思うなら他の本部長を探せよ」

ジェイムズ「分かりやすい男だな!いつもながら…」

ウィリアム「選挙資金の大半が消えたんだぞ!!君は、怪しげな男との逢い引きで墓穴を掘ったんだ!…こういうのもなんだけど、掘るのが好きだな」

ジェイムズ「面白い」

ウィリアム「ベリンガム卿も他の候補者に乗り換えるとか言ってたよ」

ジェイムズ「…誰に」

ウィリアム「それが…俺にどうとか」

ジェイムズ「おい…勘弁してくれよ…!君は、社会に尽くす精神など持ち合わせていないじゃないか!」

ウィリアム「俺が嫌なら、別の候補者に投票すれば良い!」

ジェイムズ「冗談だよな…?…冗談に決まってる!!!」

ウィリアム「いいやジェイムズ!俺は本気だ!!君のスピーチ原稿見たよ。あれはダメだ。俺が書いたやつの方がまし。はいっ(自分の書いた原稿をジェイムズへ放り投げる)」

(呆然と立ち尽くすジェイムズを見つめるサーシャ)

ウィリアム「スクラーーップ?チチチッ(指で呼び寄せる)」

(サーシャ、やるせない気持ちのままウィリアムのもとへ歩いていく)


(ジェイムズ、ロビーへ電話を掛ける)


♪~(ロビーの携帯の着信音)


ロビー「…もしもし」

ジェイムズ「ロビー!?僕だ!今どこにいる!?」

ロビー「……消え去るところだよ」

ジェイムズ「教えてくれ!何故だ、何故新聞記者に話したんだ!」

ロビー「…何だって!?……その質問が全てだな。さよなら、ジェイムズ」

ジェイムズ「ロビー!?ロビ…!(電話が切れる)」


(ジェイムズが振り返ると、そこにはマリリンが)

マリリン「ウィリアムが、貴方はここにいるって」

ジェイムズ「…あいつに、もうおしまいだって言われたよ」

マリリン「選挙?それとも私たち?」

ジェイムズ「…選挙だけど。僕たちの事について話そう!」

マリリン「…一つだけ教えて欲しいの、ジェイムズ。(左手の薬指から指輪を外す) 何が変わったの?」

ジェイムズ「……何も?……出来ると思ったんだ。僕ならやれるって…」



M13b『Remember Us - Reprise』


♪白か黒に決められない
 選挙と違う
 愛が全て 愛があれば
 きっと 上手く出来ると僕は…


マリリン「二人でそう思ったのよ。それを信じたかった」


♪プロポーズしてくれたあの日

 覚えてる

 私は嘘でしょ?って言ったわ

 その後で「Yes」と

 若かった

 愛しい日々
 でも…


マリリン「貴方はついに目を覚ます」

(マリリン、外した婚約指輪を返そうとする。首を横に振るジェイムズ)


♪愛してる


マリリン「(強引に指輪を返し) それは分かってる!でも貴方は愛せないのよ!私を完全には」

ジェイムズ「マリリン頼むよ!僕の人生のパートナーでいて欲しいんだ!」

マリリン「…私は貴方の全てが欲しいのに?」

ジェイムズ「僕はどうすれば…」

マリリン「誠実になるのよ!特に貴方自身に対して。“常に誠実に真実を語りたい”、あの時の言葉を思い出して」



ーーーーーー



サーシャ「ウィリアムの差し金でソーホーにマスコミが押し寄せてきた。ダナとクローダは注目を浴びてご満悦だ。『ダナー!こっち見てー!』、『クローダ、もっとまっすぐカメラ見てー!』………何か腹立つぅぅーーー!!!!」



M14『Fifteen Minutes』


クローダ「…ついに来たんじゃない?あたしたちの時代がーーー!!!!」

ダナ「あしたちのーー!!!……何?」


♪誰かが言ってたわ 誰でも一度
 15分だけ有名になれると
 今がその時ね あたしたちにも
 その15分が今訪れた

 ついにきた15分
 憧れの15分
 二人の時代がきた
 時計の針を見て
 心の準備して
 世界に轟くの この名が

 人生語るよ 少しグロいけど
 面白いかもよわりと
 ようこそ15分
 ここからが始まり
 ついにこの時がきた


ダナクロ「ふぅ~~~~っ!!!」


♪今日からセレブに 注目の的
 あちこち引っ張りだこで 憧れの的
 モデルもやろう ブランドも作ろう
 自伝も書いちゃうよ 暴露本だよ

 夢の15分 掴もう15分
 二人の時代がきた
 メディアに出まくり
 金を儲けまくり
 勝たなきゃ これはゲーム

 どうせヤバい人生
 スキャンダルは怖くない
 第二のスーザン・ボイル目指せ
 
 今日からスタート
 伝説の始まりよ
 最初の15分から

 トランプの15分
 マドンナの15分
 パリス・ヒルトンの15分
 スターバックスの15分
 Facebookの15分
 オースティン・マホーンの15分
 レディー・ガガの15分
 ピコ太郎の15分

 とにかく流行ったやつの!15分

 どうよ15分 ついに15分
 二人の15分がきた
 もう悪い事もしない
 時間を無駄にしない
 ダイエットだってやる
 誓うよ

 運命の扉が開く時が今
 ついに目の前にきた

 このまま15分
 ライトを浴びさせて
 ついに15分がきた

 そして15分は終わった


クローダ「さ、Tバッグを洗わなきゃ」

(洗濯機へTバッグを放り投げるダナクロ)



ーーーーーー


(ジェイムズの記者会見)



ジェイムズ「皆さん。今日私は、次期ロンドン市長選の立候補を取り下げます。私はある点において、市長に求められる職責に満たない行動をしたからです。
私の裏切りは、……裏切りは…、……裏切り?」

ウィリアム「続けろジェイムズ!続けるんだ!」

ジェイムズ「…ハハッ、笑える。…僕は、この撤退宣言を自分で書いてさえいない。選挙運動はいつもそうでした。求められてるのは僕じゃない。有権者の皆さんが与えられてるのはイメージです。メディアが作り上げた…ただのイメージ!!」

(原稿を投げ捨てるジェイムズ。それを拾うウィリアム)

ジェイムズ「水泳選手の頃は簡単でした。僕と水だけ。勝つ為に努力する。その単純さが好きだった。選挙もそうだと思った。精一杯やろう!自分が投票したい人物でいよう。それが伝わると思ってた。うぶだったぁ…。僕は水が恋しい…。

皆さん、明日の新聞は、僕がある男と浮気したと書き立てるでしょう。でも、それは彼らの主張するようなものではない!でも、それでも!…許されないのでしょう?

…この場を去る前に、これだけは言いたい、感謝を伝えたいのです」

(ウィリアム、ジェイムズを止めようと動き出す)

ジェイムズ「僕を支え、今日こんな状況においてさえ、自分らしくと背中を押してくれた……マリリン」

(ウィリアム、引き下がって上手袖へ捌けていく)

ジェイムズ「こんな謝罪、何の役にもたたないけど…、…君がいなければ僕は…!」


『パシャパシャッ!』


ジェイムズ「そして、僕の愛したロ…」


『パシャパシャッ!』


ジェイムズ「…ロンドンは。僕の愛したロンドンは、世界一偉大な都市になると思う。それに相応しい市長が選ばれる事を、願っています」

(ジェイムズ、降壇)



ウィリアム「…今のは何の真似だ!!」

ジェイムズ「…僕は君に気に入られようとも思っていない。これが僕さ」

ウィリアム「ハッ…哀れだな」

ジェイムズ「哀れなのはどっちだ?人形をなくした、人形つかいの方じゃないのか?君はそういう奴だ。ずっとそうだった」

ウィリアム「君は負け犬だ。ずっとそう思っていた」

ジェイムズ「おかしいなぁ。僕は今、初めて自分は勝ったと思っている」

(ウィリアム、早足でその場を立ち去る)

ウィリアム「スクラァーーップ!!!」

(サーシャ、ジェイムズの前に立ち握手を求める。応えるジェイムズ)

サーシャ「(ペコッ)」

(立ち去るサーシャ)


マリリン「これまでで最高のスピーチだったわ!」

ジェイムズ「そう思う?ねぇマリリン…」

マリリン「分かってる!でも私たちは変わらない」

ジェイムズ「じゃあどうしろって?」



M15『Finale』


♪過去に心を閉ざすより
 未来に目を向けて
 踏み出す時は恐いけど
 ただ光目指して


ジェイムズ「しばらくどこか遠くに行かないとな。マスコミはまだロビーの話しか聞いてないし」

マリリン「ロビーの話じゃないわ、あれはウィリアムがばらまいた話だと思う」

ジェイムズ「そんなっ、じゃあロビーは…」

マリリン「ずっとマスコミから逃げてるわ。彼は何も話してないもの」

(後悔するジェイムズ)

マリリン「“ロンドン・ブリッジ駅”から出る列車に乗るはずよぉー?」

(ジェイムズ、マリリンに感謝しながら走っていく)

マリリン「頑張ってね!ジェイムズ!」



ーーーーーー



(ロンドン・ブリッジ駅のホームで列車を待つロビー)



サーシャ「(キャラメルの箱を口にあてて駅アナウンスの声で)えぇーー、14:18発ロンドン行き列車、まもなく発車しまーーす。(以下到着駅案内)マーデン…」



♪普通になりたいだけ
 何故手が届かない
 欲張りなの? 高望み?
 何がダメなの?


サーシャ「(駅アナウンス)お客様へお願いします、駆け込み乗車は大変危険です!お止め下さーい!!」


(悲しげに去ろうとするロビー)


ジェイムズ「ロビー!」


ロビー「…ジェイムズ?」



♪おかしいよね こんな場所で
 ようやく愛を見つけるなんて


ロビー「…これってマジ?本当にこれが君の望み!?」

ジェイムズ「(コクン)」


♪二人はまるでストレンジャー
 見知らぬ恋人だ


(抱き合う二人。ロビーがジェイムズのフードを手に取り、フードの中でキス)



ロビー「…でも、俺の為に何もかも諦めるなんて…」

ジェイムズ「違うよ?全部自分の為さ!普通でいたいんだ」


♪手を繋いで 映画見て
 たまに割り勘で 食事して
 欲張りかな? 高望み?


ロビー「そうは思わない!!」

(ロビー、ジェイムズに飛び付き一回転)


ヴェルクロ「ロビィーー!!ロビーー!!!待ってー!!」

(サイドサドルの自転車に乗って駅へやって来たヴェルクロ)

ロビー「クロ!?何でここに…」

ヴェルクロ「マリリンに会ってきたの」

ジェイムズ「マリリン!?」

ヴェルクロ「そう、貴方のよく知ってる」

ロビー「それで?」

ヴェルクロ「あ。誰でも簡単に遺言書を検索できるサイトを教えて貰ったの」

ロビー「遺言は無いんだよ?」

ヴェルクロ「無いって言われただけでしょ?」

(ロビーの母親の遺言書を差し出すヴェルクロ)

ヴェルクロ「あんたは単独の、たった一人の相続人だったの。全部あんたのものだったんだよ!」

ロビー「あぁーーっ!なんて事だ!!」

(鞄から母親の遺灰の缶を取り出すロビー)

ロビー「ありがとう、母さん。俺を救ってくれた…!!」


ジェイムズ「…信じられない」

ヴェルクロ「だからこれが本当なんだってば!」

ジェイムズ「いや、あれの事さ…見てごらん!」



サーシャ「それは駅のスクリーンに流れたニュース速報。『ウィリアム・ジョージ、助手のサーシャ・ラーキンにパワハラを訴えられ、立候補を断念』!」



ジェイムズ「よくやったぞー、サーシャ!! あ、そろそろ時間だ」

ヴェルクロ「そういえば彼がどこに遺灰を撒くか聞いた?」

ジェイムズ「いや?」

ロビー「マーゲイト海浜公園だよ。おふくろが好きだった場所なんだ。それが何か?」

ヴェルクロ「別に?ただジェットコースターのてっぺんから撒くのはやめた方が良いと思うよー?」


♪どうか どうか
 小さな愛に包まれた
 ありふれた暮らしが
 ただただ欲しい


(親友の挨拶を交わすロビクロ。ヴェルクロはベンチに立ち、全力で手を振って見送る。すると一人の男性とぶつかる)


ヴェルクロ&男性「うわぁっ!!ごめんなさい!!いえ、こちらこそ!!」

男性「変な事聞くけど…君、金魚に詳しい?ほら、そこの遊園地でゲットしたんだ!ジャムの瓶にピンポン玉を入れるやつ!」

ヴェルクロ「あ、いえ、私は…」

(去っていく男性)


♪そして金魚を飼いたい…


ヴェルクロ「待ってーーー!!!!」

(男性を追いかけるヴェルクロ)



(上手袖に出てくるロビーとジェイムズ。遺灰の缶へ共に投げチューし、そのまま遺灰をばらまく。そしてジェイムズからキス)



(サーシャがタップしながら歩いていく。そこへ出会すサイドサドル)


サーシャ&サイドサドル「うわぁぉぉっ!!!」

(自分の自転車へ乗るよう促すサイドサドル。サーシャ、自転車へ乗る)


サイドサドル「サーシャ……?Goーーーーー!!!!」

サーシャ「Goーーーーー!!!!」



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M16『Bows』


♪躊躇ってないで行きな
 特製の馬車が待つ

 今夜は行こうシンデレラ
 舞踏会へ
 楽しんできなよシンデレラ
 送り届けるよ

 かぼちゃの馬車は出せないけれど
 料金半額じゃ まぁこんなとこさ

 今夜は行こうシンデレラ
 舞踏会
 胸張って行こうシンデレラ
 確かめる時だ そのガラスの靴
 君に合うのかを



                ーfinー